
彼女は股間を鷲掴みにする。
パンツを穿いたままの股間を鷲掴みにする。
仕事をするはずのオフィスで…
彼女は服をきたままで…
彼女のテクニックはパンツの上からでも男を射精に導く
でも、簡単に射精させるわけでもない
焦らし…
弄び…
そして言葉で嬲る…
その標的になる者との接触はいかにして行われたのか…
加賀美レイナによる「童貞マゾ回顧録シリーズ」第2弾
音声パートまでの小説部分を公開!
【1】-邪念-

大学の授業が終わってから校舎を出たとき、時計の針は16時37分を指していた。
すぐに歌舞伎町のスタジオに移動しても良かったのだが、社長からの連絡事項を確認するた
めに、いつもの喫茶店に入ってコーヒーを注文した。
神保町の裏路地にある、僕みたいな大学生が絶対に行かないような喫茶店だ。
木のぬくもりを感じる「古いけど古臭くはない」その喫茶店は僕のお気に入りだった。
大学生がいきつけにするには少しお高い喫茶店なので、ここ最近は行くことができていなかった。
しかし、こういう日は仕方がない。
何しろ僕は、仕事で今ここにいるのだから。
『社長…、このお店のレシートは後日お届けさせて頂きますので』と思いながら、スマー
トフォンに届いたメールを確認する。
届け先の住所は代々木だった。
代々木駅の近くではなく、僕がいつも歩いて帰る甲州街道から少しだけ南に向かったところだ。
小さなマンションのようだった。
社長の話では19時以降に届けるということだったが、受付があるのだろうか…。
スタッフがいるので早く到着するのは問題ないらしい。
「う~ん、どうするべきか」と、僕は呟いた。
やることはデータを届けることだけだ。
しかしながら色々と考えてしまうのは、彼女と会って話をしたいという邪念が僕の中にあ
るからではないだろうか。
いや、あるのだろう。
受付に人がいるのであれば、その人に渡して帰ればいいのだ。
しかしそれでは味気ない。
だが、訪問時間を遅くして彼女を待たせてしまうのも本意ではない。
何時くらいに行くのがベストなのだろうか。
いつのまにか腹黒い計算をしてしまっている自分がいることに気づき、嫌気が差してきたので、僕は考えるのをやめた。
※
注文したコーヒーに砂糖とミルクをいれてスプーンでかき混ぜていると、壁に飾られた絵
画が視界に入ってくる。
欧州のどこかの都市の風景が描かれたモノトーンの絵画だった。
最近飾られたものなのか、それとも今まで僕が気づかなかっただけなのか。
モデルになっているのは冬の都市のようだった。
絵画の右下には「Edinburgh」と書かれている。
「エディンバラ…確かスコットランドの首都だっけ?」と僕は思った。
石造りの建築物が立ち並び、それに並行して植えられた木々には葉っぱが1つもついていなかった。絵画を見ているだけで、冬に吹く冷たい風を想像することができた。
そしてその空想上の風は、彼女のことを考え意味もなく熱くなった僕の心を程よく冷やしてくれた。口から流し込むコーヒーを温かいと感じる程度まで。
「うむ…やっぱりこのお店のコーヒーはおいしい」
結局僕は、19時ピッタリに届け先に到着できるように移動を始めた。
下手な小細工をすることは、彼女に対して失礼な気がしたし、何より時間を持て余した学生の僕が、届ける時間が遅くなる正当な理由なんてないのだ。
実際に、僕が歌舞伎町のスタジオに到着して届けるデータを入念に確認しても、時間は十分すぎるほど余っていた。
時間の流れがいつもより遅くなっている気がした。仕方がないので、僕は代々木の届け先まで歩いていくことにした。
【2】-代々木のコテージ-

代々木にある届け先の住所に到着すると、そこには古びた建物がそびえ立っていた。
いわゆる「コンクリート打ちっぱなしのモダンな建物」というやつだ。
年数はそこそこ経っているようで、ところどころに緑色の苔のようなものがこびりついている。
マンションというよりは、こじんまりとしたホテルを連想させる。
もしくは、1階にカフェやアパレルショップが入っているような建物といったところか。
元々はそういう設計でつくられたのかもしれない。
モダンではあるが殺風景ではない。
入口は重厚感のあるコゲ茶色の大きな木製の扉でピッタリと閉ざされている。
その横にはいくつかの背の高い観葉植物が置かれていた。
観葉植物の奥には横長のガラス窓があるが、入口と同じコゲ茶色のブラインドがかかっていて中を確認することはできない。
僕は迷った。
オートロックやインターフォンも見当たらないし、ノックをして入るような建物でもなさそうだった。建物の名前も見当たらない。
いや、そもそも届け先を知らせるメールには、建物名など記載されていなかったのだ。
僕はそのことを思い出して、住所が間違っていないことをもう一度確認してから、ゆっくり
と木製の扉に手をかけた。
思っていた以上に重い。その重さはまるで、そこに出入りできる人間を選別しているかのように感じた。僕は自分が思っている以上に緊張しているのかもしれない。
さらに力を入れると、コゲ茶色の木製扉がゆっくりと動き出した。
屋内から漏れ出てきた空気が僕の顔を撫でる。
コーヒーの香りを含んだ喫茶店のような香りが僕の嗅覚を癒やした。
とても落ち着くウッディーな香りも混ざっている。
室内は控えめな照明で薄暗く調整されていた。
そして、耳を澄まさないと聞こえないほど控えめな音量でクラシック音楽が流れている。
【3】-謎の紳士 佐々沼さん-

入口付近から部屋の奥に向かってカウンターがあり、その内側はおしゃれなバーや喫茶店
で見かける厨房のような場所が確保されていた。
カウンターの内側だけが明るい光で照らされている。
まるで舞台で役者を照らすスポットライトのように…。
「ほほぅ、今日はこれまた…、随分とお若いお客さまですな」
声のした方に目をやると、一人の老人がカウンターの奥に立っているのが見えた。
僕は間違った建物ではないことを確認するために、その老人にゆっくりと近づいた。
老人は白いシャツに濃いグレーのベストを着こなし、銀色に光る髪の毛をオールバックにしてまとめていた。
口ひげとあごひげも生やしているが、髪の毛と同様に白髪になっていてそれほど目立たない。
お世辞にも痩せた体型とは言い難い立派なお腹を抱えていたが、太った印象を与えることのないピシッとした姿勢を維持していた。
スーツの上着を着れば、その辺の会社の取締役でも通用しそうな印象だ。
そして、発する言葉を1つ1つ吟味してから声に出しているかのような、ゆったりとした穏やかな口調で喋る老人だった。
「あの、加賀美さんに撮影したデータを届けにきたんですけど」と僕は言った。
「えぇ、伺っておりますよ。加賀美はあと20分ほどで戻る予定でございます。大変恐縮
なのですが、少しお待ち頂けますか? もしよろしければコーヒーか、紅茶でも用意します
が…。」
その老人は入口からは見えない、部屋の奥に置かれたソファーに座るように促しながら僕
に話しかける。
『喫茶店に行かなければよかったな』と思いつつ、僕はコーヒーをお願いした。
老人は「かしこまりました」と言ってから、背を向けてから厨房の奥へと入っていった。
※
僕はソファーに腰掛け、カバンの中に手を突っ込んで彼女に渡すデータを確認した。
薄暗いので手探りで探すしかない。
少しでも明るい場所を見つけようと、僕は部屋の全体を見渡した。
そこはとても居心地の良い空間だった。
置かれている家具はどこのブランドか分からなかったが、どれも高価なものに見えた。
高級家具に関する知識も縁も持ち合わせていない僕だったが、自分が座っているソファーの座り心地からもそれは明らかだった。
とは言え、見せびらかすような高級感ではない。
歴史的な建物の中にでもいるかのような、清潔な古さも持ち合わせている。
香りの影響もあるのかもしれない。
いずれにしても、些細な部分まで気を配られている気がした。
そもそも彼女はどんな仕事をしている人なのだろうか。
彼女が僕の働くスタジオに撮影に来るようになってからずっと抱いていた疑問がさらに強くなった。ここは彼女の会社なのだろうか、それとも彼女がただの待ち合わせのために利用しているだけなのだろうか。
いや、彼女がこの場所を受付と呼び、老人が彼女の名前を知っていたことからも、この場所
は彼女の仕事とは「無関係ではない何か」なのだろう。
そんな考えを巡らせている僕の元に、老人がやってきた。
「はいはい、おまたせしました。コーヒーでございます。ところで、お時間の余裕はおあ
りですか? お急ぎだったりするのでしょうか…。」
「いえ、僕は学生ですし、今日はバイトもないので、何というか、とても暇な身分なんで
す。」と僕は言った。
自虐気味な僕の返答に、老人は「ほほぅ」と言いながらニッコリと頷き、砂糖とミルクを
テーブルの上に置いた。
「いずれにしても、お待たせしてしまい申し訳ありません。加賀美はもう少しで戻ると思
いますので、今しばらくお待ち下さいませ。」
「いえいえ、気にしないで下さい。本当に暇なんです」と、僕はさらに自虐ネタを積み重
ねて、コーヒーに砂糖とミルクを入れた。
一口飲んだだけで違いが分かる、とてもおいしいコーヒーだった。
小さなミルクピッチャーに注がれたミルクも、牛乳ではなく生クリームだ。
老人は再びカウンターの内側へ入り片付けを始めた。
顔を少しだけあげて老人を見てみると、コーヒーを淹れた食器を洗っているようだった。
理科の実験で使うビーカーのような、サイフォン式と呼ばれるコーヒー機器だ。
どおりでおいしいはずだと関心しながら、僕は心の中で『こんな待遇なら何時間でも待ちますよ』
と思った。美味しいコーヒーが飲める場所に居て悪いことなど何もないのだ。
データだけ渡してそそくさと帰ることも可能だったのかもしれないが、そんな雰囲気でもなかった。彼女にも会えそうだし、僕にとってはまさに一石二鳥だったのだ。
【4】-遭遇-
彼女が戻ってきたのは、僕がちょうどおいしいコーヒーを飲み終えようとしたときだっ
た。扉が開く音がすると、コツコツというヒールの音が聞こえてきた。
「やや…、これはこれは…、おかえりなさいませ。」と老人が温かい声で彼女を迎える。
彼女は、ご苦労さまと言わんばかりに老人の出迎えに軽く頷くと、僕の方へと近づいてき
た。
「あぁ、ごめんなさいねぇ。お待たせしてしまって。どのくらい待たせてしまったのかし
ら」と彼女は言った。
「いえ、そんなに待っていませんよ。それにコーヒーをごちそうになって。ありがとうご
ざいます。」と僕は答えた。
彼女は「もうちょっとだけ待って下さいね?」と言ってニッコリと笑うと、老人の方へと
向かい何やら話を始めた。
書類を手渡し日程の確認などを行っているようだった。
急いで戻ってきたのか、慌ただしい中でもテキパキと仕事をこなす彼女は、スタジオで会
うときよりもカッコ良く見えた。

紺色のタイトなワンピースに白いトレンチコートを羽織っている。
そんな彼女の服装も影響していたのかもしれない。
そして彼女と話している老人はまるで執事のように見えた。
二人の間で話が終わり、再び彼女が僕の方へ近づいてきた。
「お待たせしましたぁ。えっと、佐々沼の方から今日は時間があるって聞いたんですけど、データのチェックをさせてもらっても大丈夫ですか?」
「佐々沼…さん?」と、僕が訳も分からずポカンとしているのを察知して彼女は話を続け
た。
「あぁ…、あの白髪の男性、佐々沼って言うんです。私の仕事のサポートをしてもらって
て…。名前を教えてもらってなかったんですね。ホントにバタバタしてごめんなさい。」
「いえ、全然大丈夫です。あと、データをチェックする時間もあるので、ゆっくり確認し
てもらって大丈夫です。」
僕が気にしていない旨を伝えると、彼女は再びニッコリと笑って、「じゃぁ、上に行きま
しょうか」と僕を誘導した。
部屋が薄暗くて気が付かなかったのだが、ソファーが置かれた場所のさらに奥にはエレベーターがあったのだ。
彼女は僕をエレベーターに誘導し、2階のボタンを押す。
「すごい建物ですね。おしゃれで、間取りも斬新な気がします。」
「ふふ、まぁそんなに頻繁にお客さまが来る仕事じゃないですからねぇ。偏った趣向にな
ってしまってるのは確かかな。君は…学生さん? 急ぎじゃないって聞いたんだけど、ホン
トに時間はあるってことでいいんだよね?」
「はい。暇です。学校の単位もほぼ取り終わってるので…。」
「あら、優秀なのね」
エレベーターで移動する間、僕と彼女は少しだけ会話をした。
僕は相変わらず自分が学生で暇人であるという自虐ネタしか披露できなかったが、それに対しても彼女はニコニコと笑っていた。
そんなに大きなエレベーターではなかったので、二人で乗り込むといささか窮屈に感じるほどだった。彼女の喋り方が敬語ではなく、時折くだけた口調になっていたことも、僕にとっては嬉しい出来事だった。
2階に到着し、エレベーターの扉が開くと、広々とした空間が視界に入ってきた。
マンションの大きさを考えると、面積はそれほど広くないはずだ。
しかし、その部屋は遮蔽物の少ない見通しの良い内装が施されており、広さを感じる空間へと変貌を遂げていた。

天井が高いからだろうか。
フロア全体の中に高低差があり、廊下と部屋は階段で区切られている。
所謂スキップフロアというやつだ。
こげ茶色の木目調タイルが敷き詰められた廊下には、大きめの傘立てと来客用と思しき椅子が置かれていたが、それらを差し置いてもなお、人が大腕を振って歩けるほどの余裕があった。
部屋との境目は壁ではなく手すりが設置されているだけで、階段を5段ほど下ることで部屋のフロア部分に到達するという設計だ。
部屋には大きな重厚感のある机の上にパソコンディスプレイが置かれており、オフィスチ
ェアがセットされている。全く同じものが3セット綺麗に並べられていた。
周囲にはファイルが並べられたラックやキャビネットワゴン、ゴミ箱などの雑貨が散見された。
テレビドラマに出てくるようなオフィスという印象だ。
いや、照明が薄暗く設定されていることから考えると、海外ドラマに出てくるような捜査機関と言った方が適切かもしれない。
そんなことを考える僕の顔は、端から見れば、さぞかし「ぽか~ん」としていたに違いな
い。彼女はクスっと笑いながら「そこに座って?」と、僕を椅子に座るよう促す。そそく
さとパソコンを起動させデータのチェックを始めた。
僕が差し出した外付けHDDをセットしてパソコンを操作する彼女は、いかにも仕事がで
きるキャリアウーマンというイメージにピッタリだった。
だがしばらくすると、彼女の動作が鈍くなり、「う~ん」という唸り声を出すようになった。
「あの、何か不備でもありましたか?」
僕は椅子から立ち上がり、彼女のパソコンを覗き込むように近づいた。
椅子に座っているだけでは、特にやることがなくて退屈だったのだ。
「う~ん、お宅の社長さん。腕がいいのは確かなんだけど、逆に良すぎるというか…。正
直にいうと、もう少し自然な写真が欲しいのよねぇ。もちろん、それを承知でお願いした
部分もあるわけだけど…。」
「ウチのスタジオに来る前に、どこか他のところで試してみたりしたんですか?」
「いいえ。君のいるスタジオが初めて。そもそも、本格的なスタジオを使うってこと自体
が実験みたいなものだから…。ところで、君はあのスタジオで働いてるようだけど、撮影
についての知識はあるの?」
「いえ、僕はただのアシスタントですから。ホントにカメラのシャッターを押すことがで
きるってレベルです。撮影のアシスタントというよりは、雑用係と言った方が近いですね。データの処理とか経理とか、そっち系です。うちの社長、そういうの苦手なんで。そんな
わけで、大学では経営学部の僕が長々と働いてる奇妙な写真スタジオになっちゃってます。」
「ふふ、じゃぁ君は、写真を撮るってことについては素人と思ってもいいのかな?」
僕が「はい」と答えた直後に、彼女とふと目があった。
彼女の顔には、それまで見せていたニッコリとした笑顔ではなく、悪戯をする少女のようなニヤリとした笑みが浮かんでいた。
「君、確かさっき…、時間あるって言ってたよね?」
「え? えぇ、まぁ…、確かそんなことを言った気がします。」
彼女はニヤリとした笑みを浮かべたまま立ち上がり、僕の方に顔を近づけた。
ハイヒールをはいた彼女は僕と同じくらいの背の高さだった。
僕の身長が173センチなので、ハイヒールの高さが10センチとすると、彼女の身長は160センチちょっと…ということになる。
撮影のときよりも、彼女との距離が近い。それだけで僕の胸はドキドキした。
そして彼女の笑みは、僕がドキドキして硬直したように動けなくなっていることを見抜いてい
るようにも見えた。
「ねぇ、今からちょっとだけ私のこと撮ってくれない?」
撮影の提案に僕が驚くことも、彼女の想定内だったのだろうか。僕の回答を聞く前に彼女
は説明を始めた。
「繰り返しになるんだけど、私が欲しいのはフツーの写真なの。プロのカメラマンが撮っ
た質の高いものではなくて、素人が普段の生活の一部を切り取ったような自然な写真。報
酬はちゃんと払うからお願いできない?」
彼女は僕が断れない絶妙のタイミングでスマートフォンホを差し出した。
「ホントにフツーの写真が欲しいのよぉ。ポーズなんかも取らずにね。今から私と適当な
話をしながら、その間に君が写真を撮るっていうのはどうかな?」
「ぼ…僕で良ければ大丈夫ですけど、報酬は要らないです。撮影については何のスキルも
持ってないわけですし…。」
「それはダ~メ。あくまで仕事としてやって欲しいの。ちゃんと責任を持ってね。あぁ…、責任っていうのは、写真の品質に対する責任じゃなくて、私とのことを口外しないで欲し
いってことね? もちろん、スタジオの社長さんにも。じゃぁ、撮ってくれる?」
僕は彼女の持っていたスマホを受け取り、カメラを起動させた。
ポーズを取らない撮影と言われても、彼女の何をどう撮影すればいいのか全く分からない。
とりあえず彼女との距離を少しとり、スマートフォンの画面に彼女の姿を捉えてみた。
「社長にもですか? それは契約上何か問題があったりするんですか?」と僕は言った。
「いいえ。契約上の問題は何もないわよ?スタジオには1回毎の撮影で報酬を払ってるか
らね。ただ、君の口の堅さを確認したいだけなの。それはとても重要なことだから…。」
僕は、彼女の言葉に耳を傾けつつ、適当にスマートフォンのシャッターを何回か押した。
本当に適当に…。

「そうなんですね。まぁ人に話すつもりはないですし、そもそも僕の周りにそんな話をす
るような人もいないですし…。あの、ちなみにどんな目的で使う写真なのか教えてもらう
ことはできますか? じゃないと僕の下手な撮影がさらに下手になっちゃうと思うんです
けど…。」
「う~ん。その目的を話すのは、君が誰にも口外しない信用できる人間だって確認できた
後になるわね。ただ、どんな写真を撮るべきか分からないっていうんなら…。そうだなぁ。例えば、付き合ってる彼女を撮影するとしたら、君はどんな角度でどんな写真を撮るかっ
てことを考えれば答えは出ると思うんだけど。彼女くらい…いるんでしょ?」
「いやぁ、それがあいにく、そういうのには縁がなくて…。」
「あら…そうなのぉ? かなりモテると思うんだけどなぁ。実はモテるっていうんじゃな
くて、普通に周りの女の子にキャーキャー言われてもおかしくないレベルだと思うんだけ
ど。」
「いやいや、本当にそんなことないんですよ。女っ気ゼロの学生生活です。」
「ふふ、じゃぁさぁ…。私が恋人で付き合ってると思って撮ってみてもらえる? 君から
見れば私なんてオバさんかもしれないけど、できるかなぁ?」そう言いながら、彼女は僕
との距離を少し詰める。
「そんなオバさんだなんて。加賀美さんはとても美人じゃないですか。女子大生にはない
色気があると思います。」
「あれれ~、今の返答を聞く限りでは、なぁんか女慣れしてそうだなぁ」
「いやいや、本当にそんなんじゃないんですって」
「ふふ、嬉しいこと言ってくれるのね。確かに私もまだ20代だしね。じゃぁ、お姉さん
ってことにしておいてもらおうかしら。ねぇ、このまま会話しながら適当に撮ってもらえ
る?」
僕は「はい」と返事をしてから、スマートフォンで彼女の撮影を続けた。最初はどうなる
ことかと思ったが、彼女と会話をすることで、そしてその会話が多少なりとも笑いのある
会話だったことで、僕はとてもリラックスすることができた。
「ウチのスタジオにきたのは、社長のツテですか?」
「うん、そうね。知人に紹介してもらったの。さっきも言ったんだけど、すごく自然な写
真が欲しくて。生活の一部を切り取ったようなね。だから写真スタジオでプロの人に撮っ
てもらっても意味ないかなぁ…とは思ったんだけど、まぁ試してみようと思って…。」
「それで今写真を撮ってるのが素人同然の僕っていうのは、なんかこう…申し訳ない気が
します。」
「それは気にしなくていいって言ってるでしょ? 君が気にすることは?」
「今ここで起こっている出来事を人に言わないこと」と僕は言った。
「そう。それだけ守ってくれればいいの。絶対にね。ねぇ、ちょっと撮った写真見せてく
れる?」
僕はスマホで撮った写真のライブラリを表示させて彼女に渡した。彼女は真剣な眼差し
で、スマートフォンとのにらめっこを開始する。
「あぁ、結構いい感じねぇ。こういう自然な写真が欲しかったの」
「プロのスキルを一切排除した素人の写真でございます」
「ふふ、そういう意味で言ったんじゃないからね。でも君のそういう会話の切り返し方…、結構好きかも。」
「佐々沼さんの丁寧な口調を真似てみました」
「あらあら、学習の早いカメラマンさんだこと」
彼女との会話は楽しかった。
この日初めて、彼女と会話をするようになった訳だが、もっと前から知り合いだったような、そんな打ち解けた雰囲気を感じることができた。
恐らくは、彼女がペラペラと喋ってくれるからだろうな…、と僕は思った。
「ねぇ、またお願いできるかしら。」と帰り際に彼女は言った。
「できれば連絡先も交換しておきたいんだけど…。あっ、あとコレ、今日の報酬ね♪」
彼女は右手でスマートフォンを操作しながら、左手に茶色の封筒を持っていた。
そして茶色の封筒を僕の胸にそっと優しく、ゆっくりと押し当てた。
「も、もちろん大丈夫ですけど…。」と言う僕は、封筒越しに、彼女の指が僕の体を撫で
ているのを感じていた。
彼女の指は細くしなやかで、その指先には落ち着いたベージュのネイルが施されていた。
僕は無意識に封筒を受け取り、彼女が連絡先を交換するために持っていた右手のスマートフォンに視線を移した。
そして彼女とLineの連絡先を交換した。
最寄り駅までの道中、いろいろな妄想が僕の頭を駆け巡った。
僕は、彼女といつでも連絡を取れるようになったのだ。
そして彼女はまた「お願いしたい」とも言っていた。
その事実は僕の胸をグラグラと揺さぶった。
彼女の言葉と笑顔をそのまま受け入れることが理想的だ。
ただ、そうするには僕のやったことはあまりにも乏しかった。
素人に毛が生えたような撮影技術しか持たない大学生が、写真を数百枚撮っただけなのだ。
彼女は社交辞令でまたお願いしたいと言ったのかもしれないし、連絡先を交換したからと言って頻繁に連絡を取るような関係になるわけではないのだ。
それは、今後の僕の行動次第で変わるものなのだろうか。
彼女との間に起こり得る様々な未来が、枝分かれする木々のように僕の脳内に張り巡らされ、1本の大きな木になるような感覚を覚えた。
彼女の事務所から駅までは歩いて15分以上かかる距離だったが、その時間はあっという間に過ぎ去った。最寄り駅はJRの代々木駅だったが、乗換なしで帰ることができる都営新宿線の初台駅まで歩くことにした。
僕の記憶はそこでパッタリと消えてしまった。
まるで停電した都市の明かりのように…。
歩くことが面倒だとも思わなかったし、どんな道を通ったのかも覚えていない。
駅の改札に着いて財布を取り出そうとしたとき、ポケットに入っていた茶色い封筒の存在に気が付き、僕はふと我に返った。
『そう言えば、報酬として渡されたんだったな』と思いながら、僕は封筒の中身をさりげ
なく覗いてみた。
学生ということもあって経済的に余裕があるわけではなかったが、報酬なんて気にしていなかった。それ以上に、彼女とお近づきになれたことが嬉しかったからだ。
しかし、結局はこれが彼女との関係を構築する上で、その歯車を加速させる潤滑油になったのかもしれない。封筒の中には1万円札が2枚入っていたのだ。
【5】-進展-
「多すぎて困ることなんて何もないじゃない。それに、もう何回も来てもらってるんだし。タクシー代にでも使ったら?」
茶色い封筒の中身について、後日彼女に質問したとき、その反応はあまりにもサッパリとしたものだった。
プロの撮影技術をもたない学生が写真を撮るだけで2万円。
それは当時の僕にとっては怪しいくらい待遇の良い仕事だった。
もちろん、『絶対に口外しないこと』という条件もそのままだったが、彼女に伝えたように、そもそも僕にはそれを言う程の親しい人物が周りにいないのだ。
1つはっきりしているのは、『またお願いできるかしら』という彼女の言葉は社交辞令などではなかったという事だ。
彼女はとても忙しそうで、むしろ僕は頻繁に呼ばれた。
休みの日がなくなるほどに…。
大学の授業の後に行くこともあれば、写真スタジオのバイトが終わった深夜に行くこともあった。メッセージのやりとりをする機会なんてあるのだろうか…と思っていたLineには、スケジュールを確認するやりとりがズラリと並ぶことになった。
僕が彼女に会ってやることはとてもシンプルだ。
新宿の写真スタジオでやっていたことを、そのままやればいいのだ。
ただし、駆使するのは素人の僕の撮影スキルになるが…。
しかし、彼女はスタジオで撮影するときよりもリラックスしているように見えた。
毎回、様々な衣装を着て僕が彼女を撮影する。
日によっては、途中で着替えて複数の衣装で撮影することもあった。
撮影しているときは彼女と何らかの話をすることになったので、自然と彼女との距離も縮まっている気がした。
だが、話すネタが無限にあるわけでもなく、時間が経つにつれ、そして回数を重ねるにつれ、必然的に彼女が写真を何に使っているのか…という話題に移ることが多くなった。
当然、彼女はやんわりとゴマかした。
ただし、僕が写真の使用用途について質問することに明確な不快感を持っているわけでもないようだった。そんな彼女の様子から、僕の彼女の仕事への興味は日に日に増すことになった。
※
その日は大学の授業もバイトもない『とある晴れた木曜日』で、午後3時に彼女と会うことになっていた。初めての訪問から2週間も経っていないのに、訪れるのは7回目になる。
そして彼女に会う1回1回が、とても濃密なものだった。
まるで、彼女と数ヶ月前から同じことをしているような錯覚に陥るほどに…。
僕は、昼前に起きてから、最寄り駅である都営新宿線の笹塚駅から代々木へと向かった。
「ややっ…これはこれは…今日もお早い到着ですな。」
入口の茶色い木製の扉を開けると、穏やかな声が聞こえてきた。
執事のような紳士的老人、佐々沼さんだ。
「はい、早くくれば佐々沼さんのコーヒーをゆっくり楽しめるわけですから…。」
「いやはや…これは…ありがたきお言葉でございますな。それではさっそく…。」
「いつもすいません。よろしくお願いします。」
彼女の仕事の手伝いをするようになって、僕が心地よいと感じたことの1つはこの環境だ
った。佐々沼さんは僕が何時に行ってもカウンターにいて、おいしいコーヒーを淹れてくれ
た。帰り際に本格的なボロネーゼのパスタとサラダを出してくれたこともある。
佐々沼さんは、コーヒーだけではなく料理の腕も一流だったのだ。
彼女と佐々沼さんは、代々木にあるその建物を『代々木のコテージ』と呼んでいた。
はっきりと聴いたわけではないが、建物全体を彼女か、もしくは彼女の会社が保有しているよ
うだ。コテージとは本来、シャワーやトイレの付いた宿泊施設を意味するもので、仕事場を指す言葉としては適切ではないのかもしれないが、僕はそれほど違和感を感じなかった。
それほどに居心地が良いのだ。
1階は佐々沼さんが仕切る厨房兼カフェテリア、2階はオフィススペース。
それより上に何があるのか僕にはまだ知らされていなかった。
コーヒーを半分ほど飲んだ所で2階へ移動しパソコンを起動する。
そしてそれまでに撮った彼女の写真を整理する。
その一連の流れは、既に僕のルーティンとなっていた。
彼女が時間通りに来ることはまずない。
それは彼女が忙しいからであり、そのことは社会人経験のない僕でも容易に想像ができた。
だからこそ、1階でリラックスできる場所を作っているのかもしれない。
※
「ねぇ…今日の服装ってどうだった? よかったら君の意見を聞きたいんだけど…。」
「あぁ、えっとぉ…今日も素敵だったと思います。」
「ふふ、ねぇ…。ちょっとは具体的なコメントをくれてもいいんじゃない? どこがどう
素敵なのか…。」
「う~ん。確かにそういうコメントは大切だと思うんですけど、どういう目的で使うのか
分からないとコメントするのも難しいというか…。」
「あぁ…そうね。確かに仕事について詳しく話してないからねぇ。ふふ…、じゃぁ…ちょ
っとだけ説明しちゃおうかしら」
彼女はそう言うと、デスクチェアに座る僕の背後にさりげなく回った。
僕の首に腕を巻き付けながら…。
【6】-パンツの中でお漏らし射精-

ねぇ、パンツを穿いたままだよ?
パンツを穿いたまま…射精しちゃうの?
それって…お漏らし…だよ?

